「和をもって貴しとなす」の我が国「絆」社会においても、今や 科学技術の発展と
浸透・拡充によって、利用する技術のリスクを公表、 公開する習慣が必要です。
それには「正しく、正確に、わかりやすく」が大前提であり、「百聞は一見に如かず」
の見える化が最も有効であると思います。
思えば高校を卒業し、東京に出てきて当時電子顕微鏡の職人になれば食うには困らない だろうと、単純な気持ちで電子顕微鏡製造会社に入社しました。
電子が発見(1897年)されてまだ間もないのですが、以後科学技術の発展と進歩により
電子顕微鏡の分解能も飛躍的に向上しました。仕事を通して次第に自分の目で見る
そのインパクトの大きさに驚くようになりました。
改めてその時代に遭遇した巡り合わせに感謝し、その時に出会った写真を紹介します。
5回対称の準結晶と 5弁のトマトの花
百聞は一見に如かず
科学技術は万能でありませんし、まして不確実なことを説明しようとすると
大変な困難が伴います。誤解や不安を煽ったり風評被害が出たりします。
従って現実の姿をありのまま、解りやすく、正確にすることが、正しく伝える
ことの第一歩だと思います。
それには「百聞は一見に如かず」の、見える化が最適です。それがあってこそ
初めて正しいリスク情報の公表が可能となります。
鳥インフルエンザやBSEも原因物質を顕微鏡で見ることが、感染防止や治療の
決め手となります。
アレルギーや花粉症だって原因がどのような材料かがわかれば、対策や防御
の方法も判ります。
原発から放出された物質が今はどのような姿、形で潜んでいるか、それを
電子顕微鏡で見ることが、除染をするためにも必要な情報だと思っています。
5回対称の準結晶と 5弁のフウロの花
準結晶 / 電子顕微鏡に5弁の花が咲いた
私は1994年に電子顕微鏡の技術職人として仙台に赴任していました。
当時東北大のTsai 先生が準結晶を盛んに研究していた環境にあり、私たちのチームも、 ジュラルミンより軽くて強い材料を探すために、準結晶を作っていました。
たまたま私が関わっていたのは、準結晶がうまくできていると電子顕微鏡では
五弁の花が咲いたように見えましたから、強く印象に残っています。
そもそも初めて準結晶を発見したのは1982年で、イスラエルのシェヒトマン
という先生でした。 5回の対称性をもつ準結晶の発見は現代の物質概念では
“あるはずのないもの”でしたから、 固体物理学でも衝撃的な事件でした。
当時の常識からは考えられず、発表当時はすぐ壊れてしまう不安定な結晶だった
ため、新概念の導入は認め られずシェヒトマン氏は研究室から退去を求められた
といいます。
1987年になって東北大のTsai 先生は次々に安定な 準結晶を作り出した為、
新概念が認められた様です。その準結晶の発見が2011年のノーベル化学賞
に選ばれたのですが、肝心のTsai 先生が受賞できなかったのはやはり残念でした。
準結晶は耐熱性および耐摩耗性、特に高温強度に優れおり、現在ではフライパン
などに応用され,テフロン(400℃~500℃)よりも高温(700℃~800℃)でも使え、
高温でも焦げ付かない調理が可能となった点です。
「ノーベル賞を取る方法」
最後に一高の二年先輩で、長年日本電子(株)欧州支配人であった浅沼幹夫氏の報告から 「ノーベル賞を取る方法」を紹介します。
エジンバラでのIMSC(国際MASS学会)における2002年度のノーベル化学賞記念講演にてノーベル博物館のLindquvist博士の言葉
1.Courage ヤル気
2.To challenge チャレンジ精神
3.Persistence 粘り
4.To combine 連想
5.To see in a new way 転換
6.Playfulness 遊び心
7.Chance ツキ
8.Work やりぬく
9.Moment of insight 洞察力
これらがいわばノーベル賞を取る「成功の条件」でしょうか。でもこれは科学者の世界に限らず、我々の仕事の世界にも当てはまるような気がします。
(欧州支配人 浅沼幹夫氏の出張報告より)
シェヒトマン教授: 電子顕微鏡の前で